です。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から、画一的な支援では十分でないことが明らかになっています。さらに、防災士は行政や企業との災害対策上の橋渡し役としても期待されています。企業内に防災士を配置することで、従業員の安全確保や事業継続計画(BCP)の策定がスムーズに進む事例も増えています。災力の向上につながります。災害発生後の復旧・復興プロセスにおいて、公費による適切な計画は不可欠であると言えるでしょう。しかしながら現実には予算確保やさまざまな手続きが非常に煩雑で、結果復旧作業が遅れるケースはよく耳にします。阪神・淡路大震災後には、多くの仮設住宅が建設されましたが、建設までには非常に時間がかかり、また多額の建設コストを必要としました。さらに、地域住民の求めるニーズと行政側の方針がずれて、本当に必要な支援が提供されないといったケースも見受けられました。こうしたさまざまな課題は災害のたびに問題となり、徐々に改善されてきましたが今なお多くの課題が残っています。これらに対処するためには、平時からの財源確保や災害対応マニュアルの整備が重要です。また、地域住民と民間事業者、非営利団体との連携など、官民が一体となった体制を構築する必要があります。これは昨年発生した台湾花蓮地震において、花蓮県、市政府と企業、ボランティア団体間で事前に構築されていたシステムが参考となるでしょう。近年、災害対応において「災害ケースマネジメント」の重要性が注目されています。これは、被災者一人ひとりのニーズを把握し、適切な支援を行うためのプロセス例えば、高齢者や障害者、外国人といった災害時要配慮者には、それぞれに合った支援が必要です。災害ケースマネジメントでは、個別の状況を丁寧に把握し、多機関連携による包括的な支援を目指します。各自治体ではこうした支援を行うため、さまざまな取り組みを行なっていますが、その実現には、専門人材の育成やデータ共有の仕組み作りが欠かせません。住民や事業者側にもこれらの仕組みを把握できる人材を養成していく必要があるでしょう。阪神・淡路大震災は、防災士が誕生するきっかけとなりました。この震災を通じて、「自助」と「共助」の重要性が認識され、災害に対する知識を持つ人材が地域において重要な役割を果たす必要性が広く認識されたのです。2003年に創設された防災士制度は、災害時の初期対応や地域防災力の向上を目的として、多くの有資格者を輩出してきました。2024年末には30万人を超え、その数はさらに今後増えていくことでしょう。防災士は、災害発生時における避難誘導や救助活動だけでなく、平時からの防災啓発や防災訓練の場においても活躍しています。例えば、地域の自主防災組織と連携し、高齢者向け避難訓練の企画、子どもたちに災害時の安全行動を教えるワークショップを開催するなどの事例があります。また、東日本大震災の際には、多くの防災士が被災地でボランティア活動を行い、避難所運営や物資の仕分けなどに尽力しました。防災士がより効果的に機能するためには、定期的なスキルアップや地域との連携強化が欠かせません。特に、最新の災害事例や技術を学び続けることが、地域防玉田 太郎防災士研修センター代表取締役令和防災研究所エグゼクティブフェロー防災士。2015年より、防災士研修センターの防災士養成研修講座講師。回数は400回を超え、これまでに15万人以上の防災士養成に携わるとともに、地域や企業での防災セミナー、メディア出演など多方面で活動中。阪神・淡路大震災から30年を迎えた今、過去の教訓を生かし、次の災害に備えるための取り組みを進めることが求められます。また、防災士の活躍を促進し、地域社会全体で災害への備えを強化することも欠かせません。30年という節目を機に、防災の公費による復旧の遅れと課題災害ケースマネジメントの必要性防災士の役割と可能性未来への提言防災士研修センターからの提言16具体的には、以下の3点が重要です。 ●地域防災力の向上:住民一人ひとりが防災意識を高め、自ら行動できる環境を整える。 ●迅速な復旧体制の構築:公費の効率的運用と官民連携によるスムーズな復旧プロセスを確立する。 ●多様なニーズへの対応:災害ケースマネジメントの普及により、被災者個別の状況に応じた支援を提供する。未来を見据えた取り組みを一歩ずつ進めていきましょう。過去の教訓は、未来の命を守るための貴重な財産です。
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