防災・避難用品カタログ 2023
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交通機関への被害 ②救出救助や被災地支援の遅滞・長期化 ③避難所生活の混乱と生活インフラ(電力・通信、飲食・物資、トイレ・衛生)の課題と時間経過による多様化 ④ライフライン復旧の長期化による自宅避難の困難化 ⑤一斉帰宅困難者の安全確保と救出救助活動への支障などを想定している。これらは、1つの問題を解決すればよいのではない。災害は複雑化しているため多様な防災対策を講じる必要がある。例えば東京都では2021年より3ヵ年のアクションプランを策定し、DXによる防災対策の推進など、ハード面・ソフト面から防災対策を支援している。また自助、共助の担い手である都民や地域、企業等の理解と協力、公助を担う都が一体となることが求められている。防災の中心は「人」 −災害心理を理解する−大規模災害にむけて自助・共助・公助の一体化が求められる今、防災をどのように自分事化していけば良いのだろうか。DXにより防災対策は進んでも、最終的には個人の防災への意識や取り組みが欠かせない。その為に災害時におこる2つの人間心理について多くの人に知っておいてほしい。1つ目は「正常性バイアス」だ。正常性バイアスは、災害時に自分だけは大丈夫と考え、物事を過小評価する心理だ。これは心の平穏を守るための防衛本能としての心の働きだ。2つ目は「同調性バイアス」だ。同調性バイアスは、集団の中にいると他の人と同じ行動をとる心理だ。これは日常生活において協調性を保つのに役に立っている。しかしどちらも災害時には逃げ遅れに繋がる。防災の知識に加えて心理を抑え、災害時には行動できるようにしてほしい。また災害時には、理屈よりも気持ちで人は行動することを忘れてはならない。帰宅困難者が徒歩で帰宅をする理由は、危険を回避するためではなく家族の安否が心配だからだ。防災の中心が「人」であることが分かる良い例だ。防災必修化が求められる時代に −防災士普及とその背景−日本における災害は、地震の他にも風水害・火山噴火・感染症など多くの災害が予想されているが、全ての災害においても共通して重要なことに「事前防災」の考えがある。災害が発生するたびに教訓を活かすべく、行政主導のもと事前防災が講じられる。その際、大規模な災害対策も計画されるが、防災の中心はやはり人で、個人の防災の基礎知識を底上げしていくことが欠かせないとされる。その他、東京都は①ライフラインや公共阪神淡路大震災を教訓にスタートした防災士制度では、地域で防災を広める役割を持ったリーダーに多く受講されてきた。しかし東日本大震災以降、防災に関心をもった市民の防災士受講が増えている。なぜだろうか。多くの市民が防災を学問として学ぶ必要性を感じているからに他ならない。かつて防災は地域の伝承・助け合いで広まってきた。しかし近年の複雑化する災害や社会問題に対応するには、伝承だけでは不十分になってきている。防災必修化が求められる時代になったといえよう。ホームサバイバルトライアル −防災士の取組を全国へ−ホームサバイバルトライアルとは、家庭において電気・水道・ガスなどの生活インフラを制限した状態を作り出し生活をする、疑似的な被災体験に挑戦することだ。これは、災害時に避難所に行かずに住み慣れた家で生活するための練習ができ、備蓄品や日用品が十分足りているか確認することができるものだ。一般的な防災において、災害をイメージして備蓄を推奨することはあるだろう。それとの違いは、実際に生活インフラを制限した状態を体験することだ。1時間程度でも実際に体験することがどんなノウハウよりも役に立つ。防災において全ての人に期待される役割は ①平常時の活動 ②災害時の活動 ③災害発生後の活動 と3つあるが、重要なのは①平常時の活動である。平常時の活動においては、いかに災害を想定して準備できるかがポイントである。この災害の想定の精度をあげることは、防災の準備を底上げすることに繋がる。ホームサバイバルトライアルでは、簡単なチェックリストを埋めるだけで訓練が完了できるように徹底的にハードルは下げてある。この取組が全国へ広まり、日本全体の防災力が向上することを期待している。玉田 太郎防災士研修センター代表取締役令和防災研究所エグゼクティブフェロー防災士。2015年より、防災士研修センターの防災士養成研修講座講師。回数は400回を超え、これまでに10万人以上の防災士養成に携わる。18災害の複雑化と多様な防災対策−自助・共助・公助の一体化−東京都の新たな被害想定(2022年5月25日 東京都防災会議)によると、都内で最大規模の被害が想定される地震(都心南部直下地震)では、震度6強以上の範囲は区部の約6割に広がり、建物被害は194,431棟、死者は6,148人と想定されている。防災士研修センターからの提言

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